人権擁護への職場での取り組みの一環として、人権標語の募集という企画・事業が存在します。
安全標語(安全スローガン)や労働安全衛生標語などについては、毎年訪れる安全週間を中心に、各企業もその募集を現場・職場から募る動きが定着化していますが、「人権標語」については、企業レベルでの活発な募集という動きはなかなか見られません。
これは、人権に関しては、微妙な問題も含まれるためで、人権標語の募集活動の中心的な母体は、地方公共団体や全国銀行協会などの大手協会及び公的認知度の高い大企業という状況です。
人権標語の募集対象の多くが小学校・中学校の年齢の子供たちであるという事実もあります。子供の頃から「おもいやりの心」を育むという大義名分の下、学校という現場で盛んに実施されているのです。
この事実とは裏腹に、小中学校における現実的な人権問題が社会的にも大問題となっています。生徒間の「いじめ」です。これは社会に突きつけられた一大課題とも言えましょう。
そして、これと同様に、企業・職場における「パワハラ」という名の「いじめ」、時にリストラを前提としたパワハラさえも横行しているという現実があります。そして、こちらの大人のいじめ問題も社会の大きな課題であることは否めません。
人権意識の低い日本の企業と社会
人権問題が後を断たない日本の企業・社会の根にあるのが、人権意識の低さです。
利潤の追求こそ、企業の本来の目的ではありますが、企業(会社)は社会的責任も果たして社会と共に発展していくことが重要で、そのための諸活動が「CSR(しーえすあーる):corporate social responsibility」と言われるものです。
そして、欧州など先進諸国では、広範なCSRの中でも「人権問題」がますますクローズアップされているといいます。企業の海外進出・グローバル化が加速する中、名目ばかりで実質的には「人権意識の低い企業」の場合、従業員レベルでの反発(労組など)や法制度による締め付けで、いづれは企業の存続にもかかわる。という認識が顕著です。
企業の抱える人権問題と言っても、パワハラ、セクハラ、長時間労働、過労死、メンタルヘルス、女性の登用、障害者の登用・待遇、LGBT(性的少数者)、部落、人種、児童労働、強制労働など非常に多くの諸問題が存在します。
ところが、日本の企業や社会では、こういった諸問題の個々に対する認識はあるものの、これらが「人権問題」であるという認識が低く、「CSRとは社会貢献の事」という認識に留まったままであるのが実情です。
このような中、日本国内では、人権啓発のための企業における「人権研修」実施の動きも見られます。また、人権研修の実施に関して、一部地方公共団体などでは、研修計画書や研修実施報告書の提出を呼びかけているところもありますが、これは強制ではありません。
「人権啓発運動を阻害している人権意識の低さ」こそ、CSRの重要な課題と捉えることが、日本の社会・企業に求められます。
職場の人権標語の作品例
企業の職場発で募集された人権標語が訴えること。それは、人の立場・相手の立場にたって考えること。個性を尊重すること。おもいやりの心の大切さ。見て見ぬふりは罪悪・・。差別意識の撤廃。といった内容となっています。
職場は生活の糧を得るところでもあり、時になにがあっても逃げられないところでもあります。そして、パワハラ・差別等で失意に陥る人の増加は、個人への残酷性のみならず、社会全体のモチベーションの低下を招くことを意識してもらいたいと思います。
人権研修報告書の感想について
人権擁護のための人権研修が企業で行われた場合、その「研修報告書」を提出する人は「受講者」ではありません。「人権研修を実施した者」が、実施内容を報告するというケースが主となります。研修受講者は、人権研修の感想文の提出が求められるのが現状のです。
その他一般的な社員研修などで受講者が提出を求められる研修報告書にも、感想・所感の欄がありますが、人権研修の場合、特定の「誰が」というより、受講者の意識が感想としてどう反映されたかが重要視されるものと思われます。
職場の人権標語の作品例に見られるような「心」。それが日々、少しずつでも良いので広がっていくことを念願して止みません。